四国の徳島にリハーサルで行った時の話。
「徳島阿波踊り空港」に着いた俺は、空港の手荷物が運ばれてくるベルトコンベアの前でなんとなくぼーっと荷物を待っていた。
すぐ後ろにはニンテンドーDSをでかめの音量でカチャカチャやっているガキが。
前日からの寝不足がたたっていた事もあって、その音はやけに耳についた。
親は何処にいるんだよ・・・せめて音を小さくしろと注意しようかなと眼を上げた。
すると荷物が流れてくる上流の方にナイスミドルなかっこいいオッサンが目に入った。
年の頃は60前後。
ロマンスグレーなふわっとしたオールバックに、ロマンスグレーな口ひげ。
仕立てのいい落ち着いたストライプのスーツの胸元からは光沢のあるチーフ。
少し厚みのある柔らかそうなシャツ。
ボタンを上品なちょうどいいトコロまで外し、ノータイで。
足元は丁寧に手入れされた印象の赤茶色のウイングチップ。
180cmはありそうな上背に、姿勢のいい凛とした立ち姿。
やさしそうなはっきりとした目元に、オトコの余裕を感じさせる微笑をたたえた口元。
雑誌の「レオン」のモデルみたいだなあ。
ガキとDSの音を忘れ、半ば魅入るようにそのオッサンを見ていた。
しかし、眠気のせいかその後2秒ほどで自分の中の「ガキむかつくブーム」と「あのオッサンかっこいいなブーム」を終えた。
「ガコン!・・・・ヴィィーーーーー・・」
ほどなくしてベルトコンベアが動き出した。
乗客は一斉にベルトコンベアに近づく。
多くの人達は自分の荷物を早くピックアップしたいのか、規定のラインより前に行ってしまう。
あー・・・そんなに近づいたら後ろの人達が荷物見えねえだろ・・・マッタク・・やれやれだぜ・・・
いつも通りそんな事を思い、頭を左右に動かしながら、人ごみのすき間から自分の荷物を見逃さないように目で追っていた。
すると、先ほどのナイスミドルが笑顔で人の壁をかき分けながら自分のキャリーケースに手を伸ばした。
・・・・あれ?
取っ手の部分が持ちにくいのか、ケースが重いのか、なかなか上手く取ることが出来ない。
他の荷物を待つ人達にぶつかりながら、3、4mほど自分の荷物を追いかけるようなカタチになっている。
あらあら・・・たまにそういう事もあるよなぁ。
と、思ったその刹那。
なんとナイスミドルはバランスを崩し、2、3歩ケンケンをした後にベルトコンベアに倒れこんでしまった。
全員の視線はそのミドルに。
みな、思い思いの「!?」的なツラをしている。
俺も劇画調の顔になり、心から思った。
「ナニっ!?」
と。
倒れたナイスミドルは状況がわからなくなり、片手はキャリーケースの取っ手を持ち、両足をピンと伸ばして、見事なまでの呆然とした顔をしている。
頭を横に倒して見ればキャリングケースで飛んでいるメリーポピンズに見えない事もない。・・ごめん。やっぱ見えない。
正確に言えば片手を上げた初競りのマグロのようなカッコウでコンベアの上を流れている。異論は認めない。
そこにいた全員、時間が止まったようになった。しかしナイスミドルは流れている。
顔を見合わせている人もいる。でもナイスミドルは流れている。
もちろん俺も驚いた。やっぱりナイスミドルは流れている。
ガキはDSを夢中でカチャカチャやっている。うん、とにかくナイスミドルは流れている。
マグロミドルは遂に俺の前まで流れてきた。
「回転寿司みてえだな・・ふふふ・・・。」
いや、別にそんな事は言わなかったけどさ。
反射的に両手でキャリーケースごと腕を掴んで引き起こした。
そしたらマグロズシミドルは体勢を驚くほど早く整えてスッと立ち上がり、髪の毛をなでつけた。
そして俳優の佐藤浩市ばりの落ち着いた声のトーンで、
「ハハ。失礼。・・(浩市スマイルで一回、目をクルッとさせて)・・ありがとう。」
口をフッと横に結び、何事もなかったかの様にキャリーケースを立てて振り返って歩き出した。
いやー大人のオトコは違うわ。
かっこ良かったな。
かっこ良かったかな?
・・・今のカッコヨカッタ・・・?・・・
・・??・・・・???・・・・いやいやいや!
ダサかったからね!!!
ダサ面白かったからね!!!!
逆にカッコつけたのが余計に超ダサ面白かったからね!!!!!
スーツの後ろ姿に誰かの荷物に付いてたはずの「Security Check」のシール付いてたからね!!!!
ゲートでる時に、係員に「あのーあなたは、どなたかの荷物でしたか?」
ってバカ!!!!!
ちなみにみんなマグロズシシールミドルに釘付けで荷物を取るのを忘れていた・・・
そして、ガキはDSを相変わらずカチャカチャやっていたのは言うまでもない。
はあ、大人のオトコって難しいもんだな。
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